プリント基板を使った名刺の意匠をデザインします。
プリント基板では、意匠を金属調(はんだレベラー)にしたり、金メッキにしたりすることができます。通常の使い方では、電子素子とのはんだ付けに使われる表面処理です。
ほかにも、素子の名称などを表示するシルクスクリーン(白であることが多い)、基板を保護するレジスト(緑であることが多い)が使われており、これらを応用して、通常の紙に印刷された名刺とは異なる見栄えを作ることができます。
それでは名刺の意匠を考えていきましょう。
名刺に書かれていること~どんな役割・項目が必要か~
名刺の主な役割は自己紹介です。自分のプロフィールやアピールしたいこと、連絡先を書くことが主です。名刺を渡す相手は初対面の人がほとんどなため、話題の一つにもなります。例えば住所から地域の話題や名前が珍しいとかは鉄板です。
名刺が基板でできているなんてのは、かなりの印象を相手に与えることができます。エンジニアであれば自らの技術力をネタに話をできる言葉を相手から引き出すことができるかもしれません。
今回は個人の名刺を作るという点から以下の項目を入れてみます。
項目 | 内容等 | 備考 |
肩書・名前 | 何者であるかを端的に | |
コミュニティ名 ロゴ | ロゴや文字などを強調する | |
連絡先 | QRコードを設定 | Webからの問い合わせ |
オリジナル要素 | ・オリジナルロボットのマイクロマウスのアートワーク ・無線給電によりLEDの発光できるよう | 技術力やものづくり好きアピール ※回路CADで行う |
名刺の意匠をデザインする。
具体的な名刺の意匠をデザインしていくにあたり次のソフトを使っていきます。作成する画像は後に取り込む回路CAD(KiCad)でエラーが起きづらいように白黒にします。色がついていても取り込むことができるようですが、意図しない形などならないように作る段階で処置しておきます。
「PowerPoint」で素材を作る
イラストを描くソフトはAdobeや後述するGIMPなど様々あります。ただ思うのは、これらは簡単に使うことが難しい。一方パワーポイントはお絵かきソフトのように簡単に絵を書くことができます。
多用するのは図形ツールです。ほかにも画像を取り込んだり、図形の位置を動かすことや文字を書くことも容易であり扱いやすいです。
しかし良くないところもあり、ピクセル単位できれいに設定するのが難しいところです。そこで、まず名刺の外形の縦横比にあった枠を作ります。
PowerPointはサイズをcmで指定できますが、名刺サイズのまま画像を作ってしまうと解像度の低い素材になってしまいます。そこで縦横比を固定して極力大きな枠にしてデザインを作り、後にGIMPでサイズを調整する方法をとります。
- 左側の高さ・幅を名刺サイズにする
- その下にある「縦横比を固定する」にチェック
- 枠のサイズを大きくして、この中で作業をする。
PowerPointの図形の使い方などは外部のサイトや書籍に任せるとして、ここでは素材を作るうえで私がよく使っている手法と画像の保存方法を紹介したいと思います。
①画像を繰り返し表示する
クリップボード(コピー)に保存したデータを繰り返し表示させることができます。マークなどを背景に敷き詰めたいデザインなどで使えます。
②画像の背景を透明化する
素材の背景を簡単に透明化することができます。例えば下記のように3Dモデルから画像を保存した外形データの背景を消したいなどがあります。背景の色が白色です。
こういったときに下記のコマンドで同一色を削除することができます。
白色が透明化され、背景の黒が見えるようになりました。
このコマンドは1つの画像に対して1つの色しか消すことができません。しかしさらに違う色を消す方法があります。上記で色を消した要素をコピー(Ctrl+C)し、再度貼り付け(Ctrl+V)。画像として保存します。
これにより透明化した部分は元々透明である画像ということになるため、再度同じコマンドを使って色を消すことができます。
背景が単一色でのやり方を紹介しました。CADなどは背景が単純な色が多いため、このやり方で十分なことが多いです。しかし風景やポートレートなど普通に撮影した写真の背景を消したい場合はこの方法では対応できません。こういう時はリボンの左端にある「背景の削除」を試してみましょう。
③素材の保存の仕方
作成した素材は「図形として保存」から保存します。ここで形式はSVG(Scalable Vector Graphics)を選択します。SVGファイルを使うことで図形で作ったデータを拡大・縮小するときに劣化を防ぐことができます。
しかし一度画像にしたデータなどはこの形式でも劣化してしまいます。そのため、画像したデータがある場合は前述したように極力大きなサイズの素材を作り、GIMP内で縮小して調整する方法をとります。
QRコードを作る
続いてQRコードについてです。QRコードを載せておけば、自分の活動をつづっているブログやSNSのアカウントにアクセスしやすい名刺を作れます。メールアドレスなど長い文字列を表示せずにデザインをすっきりさせることもできます。
私は今回「QRのススメ」様のサービスを利用してQRコードを作ってみました。このサイトではURLをQRコードにするのはもちろん、任意のテキストだったり複数のURLをまとめて一つのQRコードにすることができます。
QRコードの見た目も複数種類変えることができ、QRコードの色・背景色、ファイル形式などを選択可能で好みのデザインを選ぶことができます。
「GIMP」で素材をまとめる
次にGIMPを使い、PowerPointで作った素材やQRコードの画像を配置していきます。名前などの文字の入力もここで行います。
GIMPは無料の画像処理ソフトです。有料のソフトに負けないくらい多様な機能が備わっています。PowerPointと比べて、使いやすさという点ではあまりよくありません。しかしピクセル単位で画像をきれいに作ることができます。
後に回路CADで作成した画像を取り込みますが、寸法(mm)と解像度(Pixel)を合わせて取り込みます。
GIMPのインストール
さて、まずはGIMPをインストールします。リンク先などからダウンロードしてください。
キャンバスを作り、素材を配置する
まず初めに名刺のサイズに合わせたキャンバスを作ります。「ファイル」から「新しい画像」を選択して、サイズ等を設定します。
次に「詳細設定」を開き、解像度を350ピクセル/in(dpi)とします。そしてキャンバスサイズを名刺サイズの91mm,55mmに設定します。dpiとの関係で55.01mmとなっていますがそのままで問題ないです。
OKを押すとキャンパスが表示されます。
ここに他で作った素材をドラッグ&ドロップします。素材の配置・サイズを調整して名刺の意匠を作っていきます。
GIMPのコマンドで主に使っていくのは赤い四角で示したツール(左上)とレイヤーのウィンドウ(右下)になります。ツールの使い方などは教本「はじめての無料で使えるフォトレタッチGIMP2.10対応 」などに任せますが、機能の簡単な紹介をします。
基本的な流れは編集したいレイヤーを選択し、やりたい機能のアイコンをクリックします。テキストに関しては新しくレイヤーが作られます。レイヤーウィンドウにある目のマークで表示/非表示を切り替えられます。
アイコン | 機能 | 使い方 |
移動 | レイヤを動かすことができます。 上に示した図の右下のレイヤーウィンドウで、動かしたいレイヤーをクリック後、キャンパス内をクリックし動かせる。 | |
矩形選択 | 四角形状の枠を作り、枠を使って内側を塗りつぶしたり、線で囲ったりすることができる。 | |
切り抜き | 画像を切り抜き、調整する | |
テキスト | 文字を挿入できる | |
拡大・縮小 | 画像を拡大・縮小できる |
基板名刺を作る上で、他に私が使った方法を紹介します。
めっき面にする意匠の銅層を作る~意匠より少し大きい枠~
意匠をめっき(ランド)で表現したい場合、意匠自体はレジストを抜くマスクの形として使います。そのため、めっき面を出すには銅層を作ることが必要です。
回路CADにて名刺の外形内を全てに銅層を設定することができますが、今回は後述する無線給電をする関係でコイルを作る配線以外の銅層をなるべく排除したく、部分的に銅層を作るための画像データを作ります。無線給電をやらないようであれば不要な操作になるため、下記は読み飛ばしてOKです。
さて、銅層の範囲を作っていきますが、基板製作の工程で「レジストを抜くタイミング」と「銅層をつくるタイミング」は異なるため位置が多少ずれる可能性があります。製造によるずれに対応できるように意匠よりも少し大きな範囲で銅層を作ります。
例として、QRコードの意匠に銅層を作ってみます。
まず新しいレイヤーを作り、銅層の範囲を個別に扱えるようにします。
レイヤー名を入れるだけでOKです。
右下のレイヤーのウィンドウに「Cu_base」というレイヤーができました。
次に「矩形選択」のコマンドでQRコードの外形にあわせて範囲を作ります。
続けて「選択」メニュー内の「選択範囲の拡大」を使います。
ポップアップで何pixel分の拡大をするかきいてくるので入力します。今回は5pixelとしました。
拡大した矩形の選択枠ができたら、「編集」メニューから「背景色で塗りつぶす」を選択します。
※色が黒でない場合は、右上の描画色・背景色(上記の図では赤・白の四角)をクリックして色を変えます。
矩形範囲を黒く塗りつぶすことができました。塗りつぶしたものが見えない場合は、レイヤーのウィンドウを確認してみてください。Cu_baseレイヤーの位置を上面側へ移動することで見えるようにします。
表示/非表示をしてみると、塗りつぶし範囲だけが独立していることがわかります。
以上でCu_baseレイヤーに銅層の範囲を作れました。この方法を使えば、銅層を任意の形状で作ることができるようになります。もちろん回路CADでも銅層の範囲を作ることができますが、例えば文字の外形に沿って銅層を作りたい場合など難しい場合がありますので、この方法を使ってみてください。
作成した意匠を画像データで出力する
意匠ができたら画像を「名前を付けてエクスポート」をクリックして出力します。形式はbmp(ビットマップ)を選びます。
通常の名刺で表・裏それぞれに記載があるように、基板でも2層基板で両面シルク印刷にすれば表現することができます。上記は表側の意匠になります。
表側の意匠はこのままでいいのですが、背面の意匠は画像を反転する必要があります。これは回路CADでは表面方向からレイヤーを見るからです。3DCADのようにモデルを動かして反転するなどをしません。
画像を反転する方法は、「画像」メニューの「変形」から「水平反転」を選んでください。隣の「レイヤー」メニューにも「変形」がありますが、こちらは選択している特定のレイヤーだけを反転させるコマンドです。注意してください。
この時銅層用で準備したCu_baseレイヤーは非表示にしておきます。(上記の操作後にやっても問題ないので、画像をエクスポートする前までに非表示にします)
意匠を反転することができました。この状態で「名前を付けてエクスポート」から画像をビットマップ形式で作ります。
最後に銅層を表現しているレイヤーだけを表示、同じように「名前を付けてエクスポート」で画像を別名で保存をします。
以上で名刺の意匠ができ、画像ファイルとして準備ができました。
No. | ファイル | 拡張子 | 用途 |
1-1 | 表側の意匠データ | ビットマップ(.bmp) | 表側のマスク、シルクになる |
1-2 | (表側の銅層範囲データ) | ビットマップ(.bmp) | 表側の銅層になる ※無線給電をやらないなら不要 |
2-1 | 裏側の意匠データ | ビットマップ(.bmp) | 裏面のマスク、シルクになる |
2-2 | (裏側の銅層範囲データ) | ビットマップ(.bmp) | 裏側の銅層になる ※無線給電をやらないなら不要 |
まとめ
基板名刺の意匠データを「PowerPoint」や「GIMP」などを使って作成しました。この方法で基板に自分のオリジナルのロゴや文字などを入れる準備が整いました。
意匠を作るうえで、PowerPointは比較的難しい操作などは必要なく、お絵かきソフトのように図形を組み合わせロゴなどのデザインができて便利です。GIMPは操作が難しいところがある一方で、無料で高機能なソフトであり、サイズ・ピクセルを意識して作成できます。
GIMPの使い方が上手になればPowerPointでやっていることは不要になるでしょうが、PowerPointは感覚的に切り貼りしてロゴなどを作れるので、初めての場合は使ってみてください。よりきれいな方法で意匠を作りたければGIMPを学んでみましょう。(「GIMP2.10独習ナビ改訂版 Windows&macOS 対応 (できるクリエイター) 」)
次回は作成した意匠データを回路CADに取り込んでいきます。