名刺基板にワイヤレス給電をするための回路・アートワークをKiCad(回路CAD)を使って設計し、コードや電池がつながっていない状態の基板で、LEDを点灯させる方法を解説します。
ワイヤレス給電とは?
身の回りにある家電製品はコンセントにケーブルをさして、有線で電力を得て動いています。一部の製品には充電池がついており、有線で得た電力を貯めることでケーブルがつながっていなくても動作できるようになっています。
一方、ワイヤレス給電はその名の通り、有線なしに電力を得ます。導線ではなく電磁力のチカラを借りてエネルギーを送電します。
ワイヤレス給電で身近なものはスマートフォンの充電器でしょう。アクセサリーとしてスマートフォンに取り付けるものや、最近ではスマートフォンと一体化したものなどがあります。
自動車においても地面に配置されたワイヤレス充電器とやり取りし、EV車の電池を充電するものが開発・実験されています。さらには走行中に充電する取り組みもなされており、発展が待たれ注目されている技術です。
ワイヤレス給電の方式
ワイヤレス給電の方式にはいくつかあり、ROHM社様のページにわかりやすく記載されています。
今回の基板名刺では電磁誘導方式を採用します。基板内にコイルを形成し、送電コイルからの磁束をとらえて電力を得ます。
電磁誘導方式の構成は、簡単かつ高効率のため、試すのにもってこいです。ただ、送電コイルから発生する磁束をしっかり捕える必要があるため、コイル間の距離が遠くなったり、コイルの中心位置がずれたりすると電力を得られません。位置にシビアな方式です。
今回の作品である「名刺」を使う場面として、展示会などで名刺を立てかけておくシチュエーションを想定します。基本的に動くものではないため、この方式でも送電することができます。
ワイヤレス給電ではコイルの特性をうまく使い、電磁誘導で電力を送ります。電磁誘導は磁束の変化によって導体に電圧が発生し、電流が流れる現象です。これは逆も言えて、電流が流れると磁束が変化します。
この現象を応用して、「送電側のコイルに電源をつけて電流を流し磁界を発生」させ、「受電側のコイルで磁界の変化を捕え電流を発生」させることで、受電側のLEDを点灯させます。
電磁誘導を発生させ続けるには磁界が変化し続ける必要があります。送電側のコイルに直流電源を入れても磁界が変化しないため、受電側に送電できなくなります。そのため直流ではなく、自宅のコンセントに流れているような交流電源をコイルに入れてやります。
コイルの動きについてはTDK社様のページに基礎知識が紹介されていますので参考にしてみてください。
それでは具体的に使用する部品を紹介しつつ、送電・受電の回路、アートワークについて述べていきます。
送電側・受電側の回路設計
送電側の回路構成
送電側の回路ですが、電源と送電用のコイルが必要です。コイルは電磁誘導をさせ続けるために交流を流す必要があります。そこで秋月電子通商様で取り扱われているワイヤレス給電のユニットを使用します。(ワイヤレスLED給電ユニットOSWPTS1208D)
コイルとワイヤレス給電用のIC(XKT-510)を載せた基板で構成されています(XKT-510に関してはaitendo様のホームページにデータシートの掲載がありました)
このユニットに入力できる電圧はDC5V~9Vです。電源供給には9VのACアダプターを使います。(ACアダプタに合うジャック)。
これだけで送電側の準備ができました。簡単ですね。
参考にこのユニットで使われている回路について外観とつながりを載せておきます。
受電側の回路構成
次に受電側の回路構成になります。
上記の回路ではLEDを1つだけつけています。もちろんLEDを増やしても構いません。
LEDを並列にする場合はLEDの前に抵抗を入れると均一に光らせられます。LEDだけを並列にするとVfのばらつきによって明るさが目に見えて変わってしまうことがあるので注意しましょう。
KiCadで回路図を書いていますが、やり方は「トランジスタ技術special 一人で始めるプリント基板作り 」が参考になります。アートワーク、プリント基板の発注方法なども記載があり、私はプリント基板の作り方をこれで学びました。
さて、この基板で使用する・作る素子は4つです。
No. | 部品 | Notes | 参考 |
1 | コイル | 基板上に配線し作成する | 2層基板の両面 |
2 | コンデンサ | 無くても可。 | LC共振周波数の調整用 |
3 | LED | 点灯用 | |
4 | ブリッジダイオード | 交流を直流に変換する | 参考素子:TS2100S |
コイルは次項で記載しますが、基板上で配線を巻くことでコイルを作ります。
コンデンサは今回の電磁誘導方式ではなくても構いません。別の送電方式である磁界共鳴方式を使う場合に使います。磁界共鳴方式は送電・受電側でLC回路の共振周波数を合わせて給電するやり方です。今回は予備設計になります。
最後にブリッジダイオードについてです。受電コイルには電磁誘導で交流が流れますが、LEDは直流で発光するため電流が逆向きの間は発光しない期間ができてしまいます。さらに電圧が高い場合、最悪LEDが壊れる危険ありです。
そこでブリッジダイオードを入れることで交流を直流(脈流 Ripple current)に変換して使うようにしています。
受電側コイルのアートワーク
受電側コイルはプリント基板内に配線で作っていきます。今回は2層基板を使うため、基板の表面と裏面に配置されます。
コイルとして機能させるためには巻き数をできるだけ増やすことが必要です。名刺サイズ91mm x 55mmの少ないスペースで極力巻き数を増やすために配線を細くします。
今回使用する送電ユニットは最大で800mAまで流せます。一般的に配線幅1mmに対し1Aといわれますが、LEDを点灯することを目的にしているのでそこまでの電流は必要ありません。そのため0.2mm幅でコイルを作ることとしました。基板の「表側で外から内」へ、「裏側で内から外」へ配線を巻いていきます。
配線をひくのはなかなか大変ですが頑張りましょう。最後忘れずに作成したコイルとブリッジダイオード、LEDを配線してアートワークは完了です。
まとめ
基板に受電コイルを作り、ワイヤレス給電でLEDを光らせられるようにしました。紙でできた普通の名刺ではできない、基板で作った名刺だからこそできる面白さがあります。
私が作成した名刺基板では、ワイヤレス給電だけでなく、コイルの内側にオリジナルロボットのアートワークをデザインとして入れておりアクセントになっています。KiCadを使って独自のアイデアを織り込んで唯一の作品を作りましょう。(トランジスタ技術special 一人で始めるプリント基板作り )
次回は作成したKiCadのデータをプリント基板製作メーカへ手配する方法について述べます。